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広島高等裁判所 昭和46年(ネ)59号 判決

控訴人・被相続人 秋富久太郎 相続財産管理人 秋富愛

被控訴人 国

訴訟代理人 武田正彦 ほか四名

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人と控訴人の間で、訴外秋富商事株式会社が控訴人に対して金一五五万〇、一五一円の債権を有することを確認する。

控訴人は、被相続人秋富久太郎の相続財産の限度において、被控訴人に対し、金一五五万〇、一五一円、およびこれに対する昭和四六年七月一六日から、各支払済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

この判決は、金員の支払について、被控訴人勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求(当審における附帯控訴による請求拡張部分をも含む)を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。」との判決および附帯控訴により原判決主文第二項の請求を変更して、「控訴人は、被控訴人に対して、金一五五万〇、一五一円およびこれに対する昭和四六年七月一六日から支払済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。当審における訴訟費用は、控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の主張と証拠関係は、次の一、二、三のとおり附加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。ただし、原判決請求原因(五)を削除する。

一、被控訴代理人は、次のように述べた。

相続の限定承認をした相続人は、相続財産の限度においてのみ責任を負うものではあるけれども、被相続人の債務についてはその全額を承継するものであるから、被控訴人は、訴外秋富商事株式会社の被差押債権の取立として、控訴人に対し、被相続人秋富久太郎の訴外会社に対する債務額一五五万〇、一五一円とこれに対する請求拡張申立書送達の日の翌日である昭和四六年七月一六日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、控訴人は、次のように述べた。

秋富商事株式会社の秋田三一に対する金一〇〇万円、金九六万円および金二二〇万円、合計四一六万円の支払は、同会社と秋田三一との間の取引であつて、秋富久太郎は無関係であり、秋富久太郎は秋田三一に対し被控訴人主張の如き債務を負担していない。

三、証拠として、〈省略〉

理由

被控訴人の本訴請求中、訴外秋富商事株式会社が控訴人に対して金一五五万〇、一五一円の債権を有することの確認請求については、当裁判所も、また、正当として認容すべきものであると判断する。その理由は、原判決判示の理由二と同様であるから、これを引用する。なお、〈証拠省略〉も、原判決の採用した証拠に照らすと、原判決の認定を左右することはできない。被控訴人が訴外会社に代位して控訴人に対し右金一五五万〇、一五一円とこれに対する昭和四六年七月一六日から支払済に至るまで年六分の割合による金員の支払を求める請求については、当裁判所は、被相続人秋富久太郎の相続財産の限度において、正当として認容すべきものであると判断する。その理由は、後記(一)、(二)を加えるほか、原判決判示の理由一、ないし四、と同様であるから、これを引用する。

(一)  元来、限定承認をした相続人も、被相続人の一切の権利義務を承継し、ただ、債務の弁済について、被相続人の相続財産の限度においてのみその責任を負担するに過ぎないのであるから、訴外会社が被相続人秋富久太郎に対して有する金一五五万〇、一五一円の債権について、被控訴人が、国税徴収法に基づき、相続財産管理人たる控訴人に対してその全額の取立権を有することが認められる。

(二)  したがつて、控訴人は、被控訴人に対して、右金一五五万〇、一五一円とこれに対する請求拡張申立書送達の日の翌日であることの記録上明らかな昭和四六年七月一六日から支払済に至るまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を、被相続人秋富久太郎の相続財産の限度において、支払うべき義務がある。

そうしてみると、以上と異なる原判決は変更を免れない。

よつて、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条、第九二条、第一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本冬樹 浜田治 野田殷稔)

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